帰宅願望

【認知症の方の帰宅願望】上手な対応の仕方を身につけたい

悩む介護士

帰宅願望のある方への対応に困っている。上手な声かけや対応の仕方が知りたい

悩む介護士

新人介護士で、帰宅願望にうまく対応できない。でも施設は人手不足だし…ひとりで対応できる方法を身につけたい

こんなお悩みをお持ちの新人介護士さんや、介護職の方に向けた記事です。

この記事を読むと分かることは、

  • 帰宅願望には、話をじっくり聞いて差し上げる方が安心され、落ち着く!
  • 帰りたがる原因・理由に合わせた声かけや、上手な対応
  • 認知症の人にはどう見えているのか
  • 帰宅願望のある人にやってはいけない対応

どの声かけや対応の方法も、今日から試せるものばかりです(新人さんでも簡単!)

帰宅願望のある方にうまく接することができるようになると、

  • 高齢者(施設の利用者)さんが安心できて、帰宅願望が落ち着く
  • その方から信頼される。
  • 介護者がイライラしたり、ストレスが溜まることが減る。
  • 自分の介護や声かけに自信が持てるようになる。
  • 帰宅願望のある方に、ひとりで対応できるようになる。

反対に、認知症の方の帰宅願望への対応の仕方を知らなかったり、間違った声かけをしていると

  • 高齢者(施設の利用者)さんの不安が増し、帰宅願望が強くなる
  • 嫌なイメージを持たれ、信頼してもらえなくなる。
  • 介護者もイライラし、ストレスが溜まる。
  • ひとりでは対応できず、いつも誰かの助けを借りなければ何もできない。
  • 家族からクレームが入ったり、上司から注意を受けることになるかも。

こんなことにならないように、記事を最後まで読んでみてください。

認知症の方の帰宅願望にうまく対応できる、ステキな介護士を目指せますよ。(認知症以外の方にも応用できます)

この記事を書いているのはこんな人。

自己紹介

高齢者デイサービスにトータルで3年勤務した准看護師。

基本の業務は介護士さんと同じ。頭ごなしに利用者さんを止める光景を見てイヤな思いをし、帰宅願望の対応を猛勉強しました! 声かけは「女優になったつもりで、恥ずかしがらずに」がモットー。

帰宅願望の原因と対応の仕方

帰宅願望とは

「帰りたい」と繰り返し訴えたり、実際に帰ろうとしたりすること。

  • デイサービスについたばかりなのに帰りたがる。
  • 自宅にいるのに「家に帰る」と言う。
  • 毎日過ごしている施設なのに、急に帰ると言い外に出ようとする。

などなど、介護現場でよく見かけます。

帰りたがる原因としては、

  • 不安
  • 認知症などによる記憶障害
  • 今いる場所や時間がわからない(見当識障害)
  • 夕暮れ症候群
  • 施設の環境が落ち着かない
悩む介護士

原因は何であれ、帰るのを諦めてくれたらいいんだけど……

いえいえ! まずは帰りたい原因・理由をお聞きすることからスタート

「介護士さんが自分の話を聞いてくれている」と思って、安心していただけるからです。

帰宅願望の原因や理由に合わせた対応・声かけの具体例を見ていきましょう。

帰りたいと訴える方へ最初の声かけ

帰宅願望がある方に、介護士さんはまず「どうして帰りたいのですか?」と聞くと良いです。

なぜなら、帰りたいと訴える人は様々な不安を抱えていることが多いからです。

例えばこんな不安

まわりに知り合いが一人もいない。

知らない場所に連れてこられた。

お金を払っていないのに大丈夫なの?

帰りたい原因・理由をじっくりお聞きした上で

だから不安になって帰ろうと思われたんですね

それが不安だったんですね。よく話してくださいました

などと共感の声かけをすると、“分かってもらえた”“この介護士さんは自分の話を聞いてくれる”と安心されます。

【経験談】正しいことをいうのが正解ではない!?

例えば、施設を利用するお金を払っていないのに……と不安がられる方に

「大丈夫ですから!」

「引き落としになってますんで!」

「娘さんが払ってるから安心して!」

など、頭ごなしに伝えても“契約した覚えはないのにおかしい”と不審がられます。

帰宅願望の女性の絵
正しいことでも、頭ごなしだと余計不安にさせてしまいます

娘さんが払っていることが、いくら正しい情報でも「娘が払うはずがない。お金をとりに帰る!」と無限ループに陥っているのを見たこともあります。

正しい情報だからといって、必ずしも納得していただけるわけではないのです。

大事なのはじっくりお話を聞き、不安に寄り添うことです。

本人さんなりの理由をしっかり聞いたうえ、落ち着いたトーンで「実は、ここの代金は家族の方が払ってくださってるんですよ」などと伝える方が分かっていただけることが多かったです。(聞く:声かけ=8:2くらいの感じです)

まとめ

帰宅願望がある方に、「どうして帰りたいのですか?」とお聞きする。

様々な不安を抱えていることが多いので、しっかり不安に寄り添うことが大事。

騒がしくない場所で落ち着いて座って話すなど、環境づくりも必要。

家にいるのに「家に帰る」という方への対応

悩む介護士

自宅にいるのに「家に帰る」といって出て行こうとされます

悩む介護士

認知症で、介護施設で暮らしていることが分からなくなったみたいで「帰りたい」と言われます

こんな場合は、本人さんが思い入れのある部屋や物品を見せて「ここがお家ですよ」と確認してもらうと良いです。部屋の入り口などに書いてある、その方のお名前を見てもらうのも良いですよ。

物の位置が変わっていないかチェック!

家具や物品の位置がちがい、見慣れた光景ではなくなっているため「ここはウチじゃない」と思っているのかも。そんな時は物の位置を元に戻してみましょう

断片的に「ちょっと見覚えあるかも」と思い出したり、しばらくは混乱されたりするかもしれません。急かさず、徐々に「ここが今の家だわ」と受け入れていくことに付き合って差し上げることが大事です。

また、自宅にいるのに「家に帰る」と言われる場合は、昔住んでいた家や故郷に帰ろうとされているのかも。

「どちらの生まれなんですか?」「私もその地方にゆかりがあるんです!」などと共通点を探し、訴えを聞きつつも興味を少しずつそらしていくと良いですよ。

まとめ

  • 思い入れのある物や部屋をみてもらう。
  • 部屋の入り口の名前を見せる。
  • ここが〇〇さんの使っているお部屋ですよ、などゆっくり説明。
  • 物の位置を元に戻す。
  • 家はどちらですか?などお聞きしつつ、少しずつ興味をそらす。

夕方になると帰宅願望を訴える方への対応

悩む介護士

夕方になると、決まって「帰りたい」と訴える人がいます

これは、夕暮れ症候群といいます。夕方には家に帰るという習慣があるため、夕方に帰宅願望が強くなりがちです。

対応は、まず理由を聞いてみることからスタート!

こんな理由を話されることが多いですよ。

帰りたい理由

  • 晩御飯の支度をしないといけない。
  • 子供を迎えに行かないといけない。
  • 暗くなるから。
  • もう遅いから。

まず「どうして帰りたいのですか」と理由をお聞きし、じっくりお話を聞いた上で少しずつ興味をそらすと良いです。

例えば、

例①

晩御飯の支度をしないといけない

→「今日は何を作るんですか?〇〇さんの得意料理はなんですか?」
→料理のコツを教えて欲しいと頼むと、人生の先輩としてアドバイスしたくなって「帰る」ことから気がそれる

人って頼られると嬉しいから気をそらしやすいんです!

例②

子供を迎えに行かないといけない

→「お子さんは何人ですか?男?女?私も子供がいるんです」
→共通点を探す。子育ての悩みを聞いてほしいと頼ってみる。

人って、頼られると嬉しい。しかも共通点があると親近感が増すんです。

例③

暗くなるから、遅くなるから帰りたい

→「日が暮れるのが早くなりましたもんね。もう12月ですね。そういえば、〇〇さんのお誕生日はいつですか?」

認知症になっても、誕生日はなかなか忘れないものです。誕生日の話から始まり、生まれがどこか、昔何のお仕事をされていたのかなど、その方をもっと知りたいんです!といった感じでコミュニケーションを図り、気持ちを少しずつそらしていくと良いです。

ただし、どのパターンでも必ず「帰宅願望について、じっくりお話を聞いてから」です。帰りたい理由も聞かずに「誕生日はいつですか?」などと聞かれたら「この介護士さんは私の話を聞いてくれない!」と認識されてしまい、逆効果です。

また、デイサービスなどでは夕方の時間帯の転倒事故に注意!

「帰りたい」と思っている方が、他の人が車に乗り込むのを見てフラッと立ち歩かれたりしがちです。見守りを徹底しましょう!

まとめ

夕方になると帰宅願望が出現しやすい。

訴えや理由を聞いた上で、少しずつ興味をそらす。

「もう遅いから、今日は泊まって明日帰りましょう」は逆効果なことも。なぜなら、もう遅いから帰りたい!とおっしゃっているからです。

施設の環境が落ち着かないから帰りたい

悩む介護士

昼食後や、夕方からのスタッフへの引き継ぎ時など、ドタバタしている時に限って「帰りたい」と言い出す方がおられます

職員が慌ただしくしていると「ここにいていいのかな?邪魔しないように帰らなきゃ」と思われるみたいです。また、食後の帰宅願望は、何かが一段落した良きタイミングだから帰ろうとされるみたい。

食後の帰宅願望に対しては「まだいていいんですよ」と教えて差し上げたり、「〇〇さんにちょうど手伝ってもらいたいことがある」と、何か仕事を頼んでみるのも良いです。

まとめ

慌ただしい環境だと落ち着かなくなってしまいます。

忙しい時こそ、環境に配慮。

口腔ケアへの誘導などで、つい声が大きくなっていないか見直してみましょう!

元気な方には、何か仕事をお願いしたり、頼ってみたりするのも良いですよ。

帰宅願望は問題行動なのか?

悩む介護士

何度説明しても「帰りたい」って……問題行動を起こさないでほしい!

こんな風に感じたり、ストレスに思っていませんか?

実は、帰宅願望は「問題行動」ではないのです。

よくわからない所に急に連れてこられた、知らない人ばかりで居場所がない……。

誰だってそんな場所は不安で、「早く帰りたい」と思いますよね。認知症のあるなしに関わらず、です。

だから「帰らせて!」と思うことは自然であり、問題行動ではないのです。

「ここで生活しとるだと?嘘を言うな。わしゃ初めて来たんだぞ」

毎日過ごしている場所でも、認知症の人にとっては「今日が初めて」と感じています

毎日顔を合わせていても「見たことのない顔」に見えています

何回言っても……という気持ちになるのは分かるし、辛いですが、イライラしてもどうにもならないと気付けたのではないでしょうか。

おすすめ

認知症の方にとって、介護施設・介護職員はどう見えているのか?

とても分かりやすく描かれたおすすめの漫画があります。

「さくらと介護とオニオカメ!」というタイトルです。

もしよかったら参考にしてみてください

帰宅願望への上手な対応4選

少し散歩したら落ち着くことも。

私が実際にやってみた、帰宅願望のある方への対応や声かけをご紹介します。

どれも上手くいったことのあるものばかりなので、一発OKとはならなくても、きっとどれかはハマるものに出会えるはずです。

その①

「〇〇さんに手伝ってもらいたいことがあるんです」

タオルたたみや、新聞紙で袋を作ってもらうなど、その方ができる仕事をお願いする

その②

「〇〇さんのおかげで助かっているんです」

「〇〇さんが帰っちゃったら、△△さんが寂しがります」

あなたはここに必要な存在だと、心の底から伝える!

その③

他の利用者さんの協力を得る。例えば

  • 同じ出身地の方を紹介して座ってお話してもらう
  • 他の利用者さんから「まだ帰らなくていい」と話してもらう

利用者さん同士の方がうまく伝わることもある

その④

どうしても……という時は、少しの時間、一緒に外を歩いてみる(上司の許可を得てから)

いずれの対応・声かけでも、まず帰りたい理由をじっくりお聞きすることからスタートです。

帰宅願望の方へ、やってはいけない対応

悩む介護士

帰宅を諦めてくれるなら、声かけなんて何でも良いんじゃないの?

帰宅を諦めてくれたら何を言っても良いわけではありません。

力ずくで止める・暴力はもってのほかですが、職員の対応が良くないとこんなことに繋がります。

間違った対応により

  • 不安が増強し、帰宅願望がひどくなってしまう
  • 職員を信じてもらえなくなる
  • デイサービスに行きたがらなくなる(家族からクレームが入るかも!)

こんな対応・声かけは絶対ダメ!

ポイント

  • 帰れません!ダメ!などと否定する
  • 別のことにそらさず「ここが家です」ばかり言う
  • 忘れたの?などとバカにする
  • 介護者の都合で行動を制限する(こっちも困るんですと言うなど)
  • 文句があるなら家族に言ってなどという
  • 嘘やごまかし
  • 施設環境がドタバタして落ち着かない
  • バリケードで出られなくする

間違った対応で帰宅願望が余計に強くなるということは、その方の不安を増強させているということです。

さらに自分たち職員も、もっと対応に追われて大変になります。

イライラせず、その方の帰りたい理由に寄り添うことが大事です。

まとめ

帰宅願望はさまざまな不安によって起こる場合が多いので、まずは帰りたい原因・理由をしっかりとお聞きする姿勢が大事です!

帰りたい原因・理由に寄り添い、

だから不安になって帰ろうと思われたんですね

それが不安だったんですね。よく話してくださいました

などと共感の声かけをすると、“この介護士さんは自分の話を聞いてくれる”と安心されます。

家にいるのに「家に帰る」と言われる方には

まとめ

  • 思い入れのある物や部屋をみてもらう。
  • 部屋の入り口に書いてあるご本人の名前を見せる。
  • ここが〇〇さんの使っているお部屋ですよ、などゆっくり説明。
  • 物の位置を元に戻す。
  • 家はどちらですか?などお聞きしつつ、少しずつ興味をそらす。

夕方になると帰宅したがることを夕暮れ症候群と表現します。

まとめ

夕方には帰るという習慣があるため帰宅願望を持つ方が増えやすい。

訴えや理由を聞いた上で、少しずつ興味をそらす。

夕方はソワソワする方が増えることも。デイサービスの送り時など、転倒に注意!

施設内が慌ただしい雰囲気だと帰宅願望が出現しやすいです。

まとめ

忙しい時間帯こそ、落ち着いた環境に。

口腔ケアへの誘導などで、つい声が大きくなっていないか見直してみましょう!

元気な方には、何か仕事をお願いしたり、頼ってみたりするのも良いですよ。

まだまだある!帰宅願望への対応・声かけ・工夫

ポイント

  • 何か仕事をお願いしてみる・頼る
  • あなたがここには必要なんですと伝える
  • スタッフではなく、他の利用者さんから声かけをしてもらう
  • どうしても難しい時は、一緒に外をお散歩してみる

絶対NG!間違った対応・悪い声かけ

  • 帰れません!ダメ!などと否定する
  • 別のことにそらさず「ここが家です」ばかり言う
  • 忘れたの?などとバカにする
  • 介護者の都合で行動を制限する(こっちも困るんですと言うなど)
  • 文句があるなら家族に言ってなどという
  • 嘘やごまかし
  • 施設環境がドタバタして落ち着かない
  • バリケードで出られなくする
  • 暴力・力ずくで止める

間違った対応が不安を増強させ、帰宅願望が余計に強くなることもあります。

余計に対応に追われて、自分たち職員の首をしめることにもなります。

反対に、「この対応が良かった」「〇〇さんはこんな声かけに安心されるみたい」など、日頃から情報をスタッフ同士で共有すると連携が高まりますよ!

声かけの悩みや介護職の方からのご相談なども無料で受け付けています。お気軽にお問い合わせフォームからお寄せください(全てのお悩み・ご相談を解決できるわけではありませんのでご了承ください)

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